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「裸足の季節」

裸足の季節」レビュー 

 ※ネタバレあります
 
 
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☆4.7
先週シネスイッチ銀座裸足の季節を観てきました。
 

思春期特有の女性の危うさや鮮やかさが繊細に描かれていて、とっても瑞々しい作品。印象的なシーン作りが上手くて、本編は97分だけど120分ぐらい観ていたような充実感があった。

ま〜それにしても姉妹5人ともほんまに綺麗!美しいものを美しく撮るという映画の醍醐味が体現されてたと思う。追われる緊迫感や、父親の狂気性が手持ちカメラで効果的に撮られていたところも、良かった。

 
 
 
 

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この作品のレビューを覗くと、慣習を犯してまでも自由になることは、本当に必要だったのかという感想をよく見かける。
う〜〜〜ん、難しいところだけれど、わたしは家を飛び出す以外のハッピーエンドはあり得なかったと思うし、行動や仕草ひとつひとつが性の対象されるトルコ社会には少々辟易した。以前、トルコに旅行したことがあるけど、田舎の地域は女性の機織りの技術で結婚相手が決まってしまう(!)など、なかなか前時代的な世界でびっくりしたことを思い出す。
 
普段から我慢することが多い社会だから、トルコポップスってあんなに爆発的なのかなぁとも思ったし、そういえば、ラマダンの習慣も禁欲の最たるものじゃないか…。文化や人の気質も西洋と違うのは当たり前だけど、トルコは特に"ケ"と"ハレ"の差が激しい地域だな〜としみじみ感じた。
 
 
慣習からの脱出というよりかは、彼女たちは自ら輝ける居場所を求めていただけで、この作品を単なる逃亡劇としてネガティヴな印象に留めて欲しくないと思った。最後のイスタンブールの煌めく朝焼けは紛れもなく希望の象徴だと思ったんだけど人によっては不安を煽ったりもしたのかな?
社会形態をまるごと否定する訳ではなく、閉鎖的な場所で声を挙げることが一番大切なことだと思う。
 
 
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そしてもうひとつ、女性監督ならではの、演技における、細やかな配慮が興味深かった。
怒りや焦燥感を食べ物にぶつける仕草(むちゃ食い的な)、女の子同士の戯れ(スキンシップやひそひそ声でアイコンタクトをとって笑い合ったり)、あと同性だけだとどうしてもだらしなくなる部屋着とか…。女の子にとってはあるあるだと思ったんだけど、男性はどうみてたんだろう。劇場にいる男性の様子を見て、中学時代に女子同士でスカートめくりやおっぱいタッチが流行った時のことを思い出しました(すみません)。
 
 
姉妹がサッカーの試合を観に行くために家から脱走するシーンがあるんだけど、マッドマックスみたいなスピード感で、はちゃめちゃに良かった、とにかく、良かったです。(たまたまその時期にユーロサッカーを観ていたことも、大いに関係している)
また、冒頭のトルコの海は天国みたいだった。真っ白なワイシャツで、性も年齢も関係なくじゃれ合う男女の姿は、天使の象徴だったと思うし、あのシーンは実は夢だったのかなとも疑ってしまう。
美しすぎて、ある意味ショッキングなシーンだった。
 
 
 
 
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本作は、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の初作品。彼女はトルコで生まれ育ち、フランスで映画を学んでいたそうな。そして驚くべきは三女のエジェ役のエリット・イシジャン以外は全員演技未経験者らしい。
末っ子マーレ(ギュネシ・シェンソイ)の強い眼差しには、作品の意志が宿っているようで、すごく魅力的だった。
(余談ですが、彼女のInstagramも最高なので見てほしいです)
 
 
 
反吐がでるぐらい窮屈な社会で声を挙げることはとてつもなく勇気のいることだけど、保守的なイメージ像に自分を合わせることなく、もっと女の子はみんな自由に生きればいいんじゃないでしょうか。「クソ色の」社会に向き合って疲弊するほど虚しいことはないので、うまくやり過ごしながら輝いていきたいものです。
 
 
おしまい。